先に結論です。インストールは10分で終わります。本番は「家じゅうの端末に、そのDNSを使わせる」ところです。 ラズパイに入れただけでは、広告はほとんど消えません。詰まるのは決まってルーター側の設定と、端末が自前でDNSを持っていくケースです。
2026年9月時点で、AdGuard Home の安定版は v0.107.79(2026年8月18日リリース)です。GPL-3.0 のオープンソースで、本体は単一バイナリです。
Pi-holeではなくAdGuard Homeを選ぶ理由
先に公平なことを書くと、Pi-hole も 2025年2月の v6 で大きく変わりました。lighttpd と PHP への依存をやめ、pihole-FTL 本体に Web サーバーと REST API を内蔵し、設定を1つの TOML ファイルにまとめています。導入実績も日本語の情報量も、今なお Pi-hole のほうが厚いです。どちらも良いプロジェクトです。
そのうえで、2026年に新規で始めるなら私は AdGuard Home を勧めます。理由は2つあります。
ひとつはアップストリームの暗号化DNSです。AdGuard Home は DNS-over-TLS / DNS-over-HTTPS / DNS-over-QUIC を設定画面で指定するだけで使えます。Pi-hole はここをネイティブでは持たず、従来は cloudflared の proxy-dns を横に立てるのが定番でした。ところが Cloudflare は、この proxy-dns コマンドを 2026年2月2日以降の新リリースから削除すると告知しています。定番だった手順がひとつ失われた形です。代替はありますが、最初から本体に入っているほうが後々ラクだと思います。
もうひとつはクライアント別のフィルタ設定です。AdGuard Home はクライアントを IP / CIDR / MAC / ClientID で登録でき、端末ごとに別のブロック設定を当てられます。「子どものタブレットだけセーフサーチを強制し、仕事用PCは最小限にする」といった使い分けが、追加のソフトなしでできます。
用意するもの:ラズパイは「小さいほう」で足ります
AdGuard Home は非常に軽いソフトです。家庭1世帯分の名前解決なら、最新のラズパイを買う必要はまずありません。
問題は価格です。2026年はメモリ価格の高騰がラズパイを直撃していて、スイッチサイエンスでは Raspberry Pi 5 / 4GB が22,990円、8GBモデルが36,300円という水準です(2026年9月時点。価格は変動します)。発売当初の倍近い印象で、この用途のためだけに新品を買うのは、正直もったいないと思います。
- 余っている Pi 4 があるならそれが正解です。2GB モデルでも過剰なくらいです
- 新規に買うなら Pi 5 の一番小さいメモリ構成で十分
- Zero 2 W は安価ですが有線LANポートがありません。家じゅうの名前解決を Wi-Fi 一本に背負わせるのは、私は避けます
周辺機器で削ってはいけないのが電源です。Raspberry Pi 公式ACアダプター(27W USB PD Type-C) は 5.1V/5A 出力に対応した純正品で、原因不明の再起動を疑う前にここを揃えておくと切り分けがラクになります。ストレージは、クエリログを書き続ける用途なので 高耐久microSDカード を選んでください。可能なら SSD 起動にするほうが安心です。
ラズパイは有線LAN接続・IPアドレス固定が前提です。DHCPでIPが変わると、家じゅうの名前解決が止まります。
インストールと初期設定
OS は Raspberry Pi OS Lite(64bit)で構いません。現行の Raspberry Pi OS は Debian 13 “Trixie” ベースで、カーネルは 6.12 LTS 系とされています。
インストールは公式のスクリプト1行です。
curl -s -S -L https://raw.githubusercontent.com/AdguardTeam/AdGuardHome/master/scripts/install.sh | sh -s -- -v
その前に、53番ポートが空いているか確認しておきます。
sudo ss -lntup | grep :53
Raspberry Pi OS は既定で systemd-resolved を使わない構成のため、ここは普通は空いています。この作業を Ubuntu Server でやる場合は要注意で、systemd-resolved が53番を掴んでいます。その場合は /etc/systemd/resolved.conf.d/ に DNSStubListener=no を書いたファイルを置いて再起動する、という手順が案内されています。
インストールが終わったら http://<ラズパイのIP>:3000/ を開きます。初回だけこの3000番でウィザードが動き、ここで管理画面のポート(既定80)とDNSのポート(53)を決めます。以降の管理画面は3000番ではなくそちらになります。
ウィザードを抜けたら、設定 → DNS設定 でアップストリームを暗号化DNSに変えておきます。tls:// や quic:// の形式でそのまま書けます。設定の実体は AdGuardHome.yaml というファイルなので、これを1つ退避しておけば設定は復旧できます。
家じゅうの端末に使わせる(ここでつまずきます)
正攻法は、ルーターのDHCPが配布するDNSサーバーを、ラズパイのIPに変えることです。ASUS や TP-Link は自社サイトでこの設定手順を公開しています。だいたい「LAN → DHCPサーバー → DNSサーバーアドレス」あたりにあります。
ここで詰まるパターンが3つあります。
1. ルーターでDNSを変更できない。 ISP から借りているホームゲートウェイでは、配布DNSを変えられない機種があります。その場合はルーターのDHCPを止めて、AdGuard Home 内蔵のDHCPサーバーを使う手があります。ただしラズパイの停止が家じゅうのネット断に直結するので、覚悟のいる選択です。
2. セカンダリDNSに 8.8.8.8 を入れてしまう。 保険のつもりで外部DNSを併記すると、端末はそちらにも普通に問い合わせるため、ブロックがすり抜けます。指定するならラズパイのIPだけにしてください。
3. 端末が自前でDNSを持っていく。 Android の「プライベートDNS」、ブラウザのDoH、そして Chromecast や Android TV のように 8.8.8.8 がハードコードされている機器があります。対策はルーターやファイアウォールで外向き53番をラズパイへDNATする、あるいは遮断する方法が知られていますが、一般的な家庭用ルーターでは設定できないことが多いです。
期待値の話もしておきます。YouTube のアプリ内広告は、広告と本編が同じドメインから配信されるため、DNSでは分離できません。 消えるのはWebページの広告とトラッカー、アプリ内のバナー広告の一部です。「全部消える」ではありません。
運用でひとつだけ。ブロックリストは入れすぎないでください。誤ブロックが増えると、原因がリストなのか回線なのか分からなくなります。何かが開かなくなったらまずクエリログでドメインを確認し、許可リストに入れる。この流れに慣れるまでは、既定のフィルタだけで数週間回すのが結局早いと思います。
まとめ
- 2026年9月時点の安定版は AdGuard Home v0.107.79。単一バイナリで、公式スクリプト1行で入る
- Pi-hole v6 も良い選択肢。ただし暗号化DNSが本体に入っている点とクライアント別フィルタで AdGuard Home が扱いやすい
- ハードは余っている Pi 4 で十分。2026年はラズパイが高騰しているので、この用途で新品を買い足す必要は薄い
- 初回ウィザードは3000番、その後の管理画面は別ポート。
AdGuardHome.yamlを退避すれば設定は戻せる - 本番はルーターのDHCPで配布DNSを差し替えること。セカンダリに外部DNSを併記しない
- YouTubeのアプリ内広告はDNSでは消えません。期待値を先に下げておく
まずは自分のPC1台だけ、手動でDNSをラズパイに向けて数日使ってみてください。家族の端末を巻き込むのはそのあとで十分です。名前解決は止まった瞬間に全員が困る場所なので、戻せる状態を残しながら進めるのが安全だと思います。
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